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Diary

Mちゃん2016年08月29日

◆晴れ。暑かった。mahoroba
◆ここ何日かは夕方になると急に気温が下がり寒くて窓を閉めて寝ていた。「あぁもう秋に入っていくんだな」と思っていたのに今日の狂暴な陽射しだ。そしてこんな夜中の11時になってもまだ窓を開けているぐらいに暑さが家の中にこもっている。残暑にも程があるってもんだ。
◆あの頃の僕は若すぎて、と、歌う古いフォークソングがあるが、ときどき自分の若い頃を思い出して恥ずかしくなったりよくそんなことができたな、と思うことがある。特に僕には二人の息子がいて、二人とも二十代だ。つまり自分の通ってきた道を今まさに彼らは彼らの人生として歩んでいることになる。比べることは無意味だけれど、息子の話を聞いてこの頃の俺はどうだったかなぁ、なんて考える。親としては「お前それはないだろう」なんて思って言いたくなるときもあるが、よく考えたら自分はもっととんでもないことをしていたりする。難しい。特に僕は本当にろくでなしだったので親らしくアドバイスなどできやしない。どの口でそれを言うか、なんてことになってしまう(^_^;)。
◆振返れば、申し訳ないことをしてしまったなぁと思い、謝りたい人はたくさんいる。今でもたまに思い出すのはMちゃんだ。男性だ。僕よりも二つ上だったはず。一人暮らしをしていた頃の馴染みの飲み屋の常連仲間で、Mちゃんは中学を出てすぐに働いていた。予備校生だった僕のことを随分気に掛けてくれて、仕事の休みの日などは僕のために昼ご飯を作って持ってきてくれたりした。勉強の邪魔しちゃ悪いからといつもさっさと帰ろうとするMちゃんを引き止めて、あれこれ話をした。Mちゃんは僕の部屋にあるたくさんの本やレコードに感心して、特に本を読みたがったのでよく貸してあげた。自分は学がないから簡単なやさしい小説を教えてくれと言って、読み終わると「これはどういうことだったんだ?」と僕によく訊いてきた。教えてあげると真剣な顔で聞き入って、理解できると嬉しそうに笑っていた。
◆Mちゃんは、きっと勉強がしたかったんだと思う。でも働かなきゃならなくて。そして勉強していればいい僕の環境がきっと少し羨ましくて。
◆Mちゃんは僕の持っていたシャープペンを随分気に入っていた。同じのが二本あったので一本あげると、すごく喜んでいた。これで読んだ本の感想文でも書くかな、と少し恥ずかしそうに言った。読むから持っておいでよと言うと、嬉しそうに頷いていた。
◆僕は急に引っ越しを決めてしまったので、Mちゃんにちゃんとした別れを言えなかった。飲み屋に来ればいつでも会えるんだからと思っていた。でも、いざ引っ越すとその店から足が遠のいてしまって、結局そのまま一度も会えず仕舞いになってしまった。まだ部屋に電話もない若者も多かった頃だ。簡単に連絡をつけられる時代じゃなかった。
◆Mちゃんにあげたシャープペンと同じシャープペンは、もう何十年も使っていないけどまだ手元にはある。Mちゃんは、あれからどんな人生を送っているだろうか。

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