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Diary

サチさんの語り口2016年01月27日

◆晴れたり曇ったり。sawamura
◆話し方、というのはとても大事だと思う。それひとつで人間はがらりと印象が変わってしまう。小説で言えば語り口、だろう。三人称と一人称というものがあるんだけど、僕の小説はほとんど一人称で書かれている。三人称で書いたものは短編一本か二本ぐらいしかない。理由はまぁいろいろあるんだけど、大きなものは、それが自分に合っているんだなと感じたからだ。いつか三人称、つまり神の視点で書くだろうとは思うけど、あ、書いたんだった。三月に出る『恭一郎と七人の叔母』(徳間書店)は初めて三人称で書いた長編になる(乞うご期待!)。
◆〈東亰バンドワゴンシリーズ〉が皆さんに広く受けいられてもらったのは、サチさんの語り口によるところも大きいんじゃないかと思う。華族の娘として生まれ、二十歳のときに下町の古本屋の勘一の嫁になり、それからずっと江戸っ子のべらんめぇ口調の勘一の妻として生きてきたサチさん。彼女の語り口が自然と僕の中から出てきたものだけど、本にする際に最終的に参考にしたのは、女優の〈沢村貞子〉さんの語り口だ。たぶん、僕ぐらいの年齢じゃないとリアルタイムで沢村さんの演技は観ていないだろう。
◆沢村さんは浅草で生まれ育った生粋の下町っ子だ。父親は狂言作者で兄は歌舞伎役者、弟は映画俳優とまさに芸能一家だ。その語り方は、まさしくサチさんだ。もし沢村さんの『わたしのおせっかい談義』という本を古本屋で見かけたらぜひ手に入れて読んでほしい(写真もそれにしようと思ったけどちょっとネットでいいものが見つからなかった)。沢村さんの講演をまとめたその本を読むと「あっ、サチさんだ」と思うはず。いや、サチさんよりもう少し沢村さんは下町口調で、ざっかけなく、ざっくばらんに話している。ここに華族のお嬢様のエッセンスを加えればまさしくサチさんだ。
◆僕の中からサチさんの語り口が何も考えずに自然に出てきたのは、やはり昔の映画やテレビドラマで女優さんたちの語り口を聞いていたからだろうと思う。沢村貞子さんもそうだけど、杉村春子さんや、若尾文子さん、加藤治子さん、八千草薫さんなどなど、上品にも、ざっくばらんでも、自在にあの時代を生きてきた女性を演じてくれた女優さんがいたからこそだ。感謝しています。
◆相手のことを思って、きちんと話す。そして、聞く。それだけで、コミュニケーションは円滑になる。

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