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Diary

思い出はいつも指を動かしてくれる2018年01月27日

◆雪が降ったり晴れたり曇ったり。
◆ここ何日か日本中を襲っている寒波はもちろん北海道も例外ではなく、我が家近辺はマイナス22度まで下がった日もあった。さすがにそこまで下がるのは年に一回あるかないかなんだけど、子供の頃は日本の最低気温を記録した旭川市に住んでいたので、確かワンシーズンで二、三回はマイナス20度になっていたはずだ。そんなときでも子供は元気で外で遊んでいたりしたんだけど、そこまで気温が下がると雪玉が作れないで困った。そう、基本北海道の雪はパウダースノーになることが多いし気温が下がると湿り気がなくなってしまうので雪玉を作りにくいのだ。あと誤解されやすいがかまくらも作れない(かまくらの文化は東北)。すぐに崩れてしまうからね。
◆もう40年近く昔の話になってしまうが、同じ店に通う常連仲間のMさんと親しくなった。Mさんはその頃予備校生だった僕より三つ年上で既に社会人。ショートカットの元気な女性で明るく陽気な姐御タイプの人だった。整った顔立ちでスリムなMさんを狙っていた常連客は多かったけど、Mさんは酒を飲んでも乱れず常に軽やかに春風のようにそういうものを受け流していた。当時僕はアパートの自室で豆を挽いてサイフォンでコーヒーを淹れていた。それを目当てにやってくる友人も多くて一日に何杯もコーヒーを落としていた。ある夜にMさんが飲んだ帰りに「コーヒー飲ませて」と僕の部屋にやってきた。淹れてあげて二人でコーヒーを飲みながら煙草を吸いながらあれこれと話していた。「男になりたいんだよね」と、Mさんはぽつりと言った。男社会での女性の扱いについての話なのかと思ったけど、違った。こんなふうに夜中に男友達の部屋にふらりとやってきても何も起こらない、つまり友情で繋がる男になりたいんだ、とMさんは言った。「あの店で女として見られるのが辛い。私は皆と一緒にただ楽しく過ごしたい」と。当時の僕はその言葉の真意を計り兼ねて気が利いた言葉の一つも言えなかったんだけど、Mさんの真剣なそして淋しそうな笑顔は今もよく覚えている。「ここでならいつ来ても男でいいよ」と言うと、嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。Mさんはいわゆるトランスジェンダーだったのかどうかはわからないけれど、それからも何度か夜中にふらっと僕の部屋に来てコーヒーを飲んでいった。引っ越してしまってからは交流も途絶えたけれど、もう還暦近くになっているはずのMさんはその後元気で自分の人生を歩んでくれただろうか。
◆何十年も付き合う友人はもちろん、ほんの数ヶ月の付き合いで会わなくなったけど覚えている友人もいる。同じクラスで過ごしたのに一度も話さないで別れたクラスメイトの中にも印象的な人はいた。そういう人たちが、僕の物語の向こう側にいつもいる。思い出はいつも指を動かしてくれる。

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