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Diary

まだ人生の戦力外になったわけじゃない2017年10月07日

◆雨が降ったり止んだりの一日。
◆親戚の法事があって札幌の某ホテルへ車で出かける。妙に車が多いなーと思っていたら今日から三連休だったのかと気づく。曜日に関係のない暮らしをしているので本当にそういうことを忘れてしまう。
◆良き喫煙者はあまり知らない建物に入るとお前はジェイソン・ボーンかってぐらいにすかさず周囲に目を配りさりげなく〈喫煙所〉の場所を発見しておく。そしてその場所と目的地の距離を頭に入れて、約束の時刻に間に合うように頭の中で計算して、一服してから現場に向かうのだ。つまり、ホテルでもそういうことをするのだ。
◆プロ野球も間もなくシーズンを終える。この時期になるとニュースになるのが〈戦力外選手〉。毎年のことなんだけど、他人事ではなく、本当にプロの世界は厳しいんだよなぁと思う。まだ二十代や三十代の働き盛りの選手がクビになるのだ。野球選手ではなくなってしまうのだ。来年から収入がなくなってしまう。あぁもう考えるだけで胸が痛くなる。自分の居場所が失われるというのは、本当に、心底辛いのだ。
◆僕も会社員を辞めてフリーになってかれこれ二十年近く経つ。フリーは、仕事の以来が来なくなったらそれで終り、だ。小説家として暮らしているけれど、原稿依頼が来なくなったら、もうそこで終わり。つまりもうお前は戦力外と言われたと同じこと。もちろん小説家としての実績が消えるわけじゃないけど、哀しいかな実績でメシは食えない。
◆デビュー前と、デビューしてもまったく売れなかった頃。家族の将来にまったく希望が見えなくて、死んで保険金を家族に残した方がマシだなと思う夜は何日もあった。ものすごくあった。何よりも、自分が〈どこにもいない〉のが本当にきつかった。それでも死なずにこれたのは、物語を書くことができたからだ。金にならなくても、小説家になれなくても、小説家という立場が消えそうになっても、書き続けることだけでしか前に進めなくて、そして物語を書けるこの頭と指があったから。
◆プロは、努力したら必ず夢が叶う場所じゃない。努力しても届かないものがあると思い知らされる場所だ。思い知らされても、まだ手も足も動くし頭も働くはずだ。頑張ってくれ。まだ人生の戦力外になったわけじゃない。

『猫ヲ捜ス夢 蘆野原偲郷』が出ます2017年10月04日

◆一日中冷たい雨が降ったり止んだりの日。
◆北海道日本ハムは本拠地札幌ドームでの最終戦。大谷くんが四番ピッチャーで登場。最後の花道というか、大谷くん自身もこれをやらなきゃメジャーに行けないと思っていたんだろう。そして期待通りの完封劇。打者としても勝利に繋がる目の覚めるようなヒットをしっかりと打つ。本当に、こんな選手はしばらく現れない。たぶん間違いなく来季はメジャーだろう。そこでまた僕たちに新しい夢を見させてほしい。
◆そんな日に届いたのが6日に発売予定の単行本新刊『猫ヲ捜ス夢 蘆野原偲郷』(徳間書店)の見本です。
◆これは『猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷』(徳間文庫)の完全なる続編です。なので、できましたら『猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷』から読んでいただくと、この世界観がすんなり理解できると思います。
◆前作は時代をはっきりとは特定していませんでしたが、戦争前の時代です。そして今作はその時代から進み、大きな戦争が終わった直後の時代になります。ですからおおむね昭和二十一年か二年頃の日本を想像していただいてください。前作で夫婦で主人公だった二人は、もういません。その代わりに、前作の最後に登場していた彼らの息子が大きくなった姿で主人公を務めます。そして同じく、前作で猫になってしまう少女がいましたが、その子が戦争で行方不明になっています。タイトルである『猫を捜す』というのは、主人公和野正也の血の繋がらない姉だった多美のことです。多美を捜し、そして綴じてしまった彼らの故郷である〈蘆野原〉をも捜すことが、今回の大きなストーリーになります。
◆前作はぶっちゃけ売れてないんですけど(^_^;)、何故か密かに人気がありました。編集さんたちからも評価が高かったのです。なので今回は完全に続編を書こうということになり、続編ならば前作と同じ時代ではなく、次の世代を書いてみようとなりました。まったく何もかもが変わってしまった時代、そして新しく生まれ変わろうとしている日本という国の片隅で、残された〈蘆野原〉の郷の者たちの活躍と、可愛い猫たちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

もしもこの先どちらかを選ぶことになったら街に住むだろう2017年10月01日

◆晴れ。少し気温が上がって暖房も切った。
◆北海道旭川市というのが生まれた街。実はずっと昔から札幌に次ぐ北海道第二の都市だったのだけどいまひとつマイナーで、でも今はあの〈旭山動物園〉で全国の皆さんにも名前を知られたのではないかと思う。旭山市ではなく、旭川市ですからね。ややこしいけどね。旭川の旭山動物園だからね。
◆その旭山動物園は僕らが中学生の頃は絶好のデートスポットだった。市街地からは離れているので、駅近くからバスに乗ってしばらく揺られて、動物園もあるい遊園地もある。二人きりがまずい場合はクラスメイト数人でやってきて夕方まで過ごしたり。小学生の頃から遠足や写生大会で何度も足を運んでいたから、勝手知ったる自分の庭だった。
◆旭川市には今も実家があるし、姉も住んでいる。友人知人や同級生も多くいるけど、18年間しか住んでいなかったので、〈今までの人生で最も短い間暮らした街〉になってしまった。何せ高校生までだったから移動範囲も狭く、実家と学校のあった周辺と駅前の中心街・繁華街ぐらいしか知らなくて、そこさえももう40年近く前だからまるっと様変わりしてしまっていて、Googlemapで見ても全然知らない場所になってしまっている。札幌なら引っ越しもかなりしたし、何よりも花屋の配達のバイトで市内全域を車で走り回ったので、どこでも案内できるのだけど。
◆作家になって東京へ行く機会が増え、東京駅近辺のホテルを定宿にした。そこへ通い出して十年以上になる。多い年には二ヶ月に一回、そしてほぼ一週間を過ごしていたから、もう実家よりもそのホテルに寝泊まりした日数が多くなってしまった。東京駅近辺のことなら、東京に住んでいる編集さんより詳しいぐらいだ。
◆街の空気が好きだ。今は田圃の真ん中の新興住宅街に住んでいるけれど、これからの人生をどこで過ごそうかと考えると、やはり街の中が頭に浮んでくる。スズメのさえずりで目を覚ますのもいいけれど、街の喧騒を目覚めの音楽にするのも心地よく感じる。特にそういう予定はないけれど、もしもこの先どちらかを選ぶことになったら、街に住むだろう。

踏み切りに立ち止まって長く延びる線路を見つめる2017年09月29日

◆晴れたり降ったり。
◆昨日の夜から急に冷え込んできて「あ、これは耐えてはダメな寒さだ」と暖房を点けました。まぁもうすぐ10月だから冷え込んできてあたりまえなんだけどちょっと早過ぎる寒さ。
◆基本的には能天気なろくでなしなんで、いわゆる精神的に落ち込むということがほとんどない。いやそりゃあ「まいったなぁ」と思うことはありますよ? 「疲れてるわー」と感じることもある。特に締切りギリギリになって伸ばしてもらって書けると思っていたのに書けていないときには、胃がキリキリと痛くなったり死にそうな気分になったりすることはあります。あるけど、まぁ伊達に音楽・広告・ゲームに小説家とクリエイター生活を40年近く送っていません。気分転換したり上げたりする方法はいくつも持っています。
◆そのひとつは、踏み切りを渡るときに立ち止まって線路を見ることだ。別に鉄ちゃんではない。電車が好きだとか旅行好きだとかでもない。でも、何故か踏み切りを渡るときにそこに立って真っ直ぐに伸びる線路を見ると、元気になる。子供の頃、家の近くに鉄道の駅があった。まだ国鉄の時代だ。幼稚園の頃、自転車に乗れるようになってから行動範囲がグンと広がった。それまで一人で行けなかったところも、自転車に乗ればどこまでも行けるような気持ちになった。その国鉄の駅にも一人で簡単に行けるようになって、ある日に待合室の壁にあった路線図を見て、突然気づいたんだ。「ここからどこにでも行けるんだ」と。目からウロコが落ちたようだった。自転車で駅に来て、汽車に乗れば日本中どこにでも行ける。日本どころか空港のある街に行けば外国にだって行けるんだ。その空想は、僕にとってとんでもなく楽しいものだった。そのときの気持ちは、映画『スタンド・バイ・ミー』を初めて観たときにまた強く僕の中に湧き出して、もうずっと消えない思いになった。
◆だから、今でも長く延びる線路を見ると、途端に元気になる。映画のあの主題歌が聴こえてくる。幼い頃の自分の背中に生えた想像の翼を思い出せる。
◆もし踏み切りで立ち止まって線路をじーっと眺めている僕を見つけても慌てないでください。にっこり笑っていますから。「よし!」と小さく叫んで、また歩き出しますから。

踊ろうマチルダの新しい夜明け2017年09月27日

◆晴れたけど夜になって雨。もうすっかり秋なんだけど気温は高かった。
◆随分と日記の更新ができなかった。何をしていたのかというともちろん原稿を書いていた。書き下ろしの原稿や新連載の原稿や新人賞の審査委員で東京行きなどなどなどが重なり過ぎてしまって、各方面にギリギリの締切りを設定してもらってもう本当に毎日死ぬ思いで書いていました。それで心労で腹の贅肉が落ちてくれればいいのにちっとも落ちやしない。むしろストレッチをする精神的余裕もなかったので運動不足で増えたりする。
◆何とか各方面に致命的なご迷惑をかけないで原稿をあげることができて、通常の状態に戻れた。まぁ戻っても相変わらず締め切りがずっと控えているんだけど、これは本当にありがたい状況なのだ。こんな小説家にたくさん仕事を与えてくれて、感謝しっぱなしだ。
◆写真は友達のミュージシャン〈踊ろうマチルダ〉の久しぶりの新譜でフルアルバム『新しい夜明け』だ。もう既に発売しているしアルバムツアーも回っていて、好評を得ている。アルバムを出していない間にマチルダはいろいろと環境が変わって、心境の変化もいろいろあったみたいだ。その上での、文字通りの、『新しい夜明け』。成熟を通り超えて本当に新しい彼がそこにいると感じた。聖も俗も死も生も喜びも悲しみも何もかもを飲み込んでマチルダが手に入れた〈讃歌〉がここにあると思う。最高だ。
◆原稿に専念している間にも世の中では、どう言えばいいのかわからないぐらいいろんなことが起こっている。ニュースを見るとついついいろんなことを考えてしまって、それだけで気力を消耗するので見ないようにしているんだけど。何を考えているかというと、いつもここで言ってるけど、マシンガンでドラム全弾叩き込んでいる様子だ。誰に叩き込むかって? そりゃあもうあいつらですよヽ( ´ー`)ノ
◆デビュー作で〈違い者〉というものを描いた。それは今では使えない言葉になってしまっている〈気ちがい〉と同じ概念だ。普通の人間とは〈気が違っている〉人間は世の中に確かにいるんだ。僕は〈解す者〉として、あるいはそれらを見つめる〈稀人〉として、物語を書き続けているつもりだ。優しく、きれいで、楽しい、希望のある物語を。もちろん、その裏にあるものを見据えながら。
◆新刊は今年はあと三冊でる予定です。そして新連載もこの後またいろいろ始まっていきます。また順を追ってお知らせしますね。

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