2013年12月2日(月) 日々 ◆札幌は雪が降ったり曇ったり。 ◆本当にマジでこの時期になると聞きたくない言葉は「クリスマスも近いね」。あぁごめんなさい一生懸命書いていますからなんとか皆が平和なクリスマスを過ごせるように間に合わせますから、と。まぁ仕事があるという幸せな状態なのだが。 ◆日々に流されないためにも、惰性にならないためにも、電話が掛かってきた日の事をたまに思い出す。講談社からメフィスト賞受賞の連絡の電話があった日の事だ。会社を辞めてゲームシナリオを書いていたけどそれも仕事が途絶え専門学校の講師で食いつないでいた。子供二人と家のローンを抱えての生活は当然のように苦しく文字通り爪に火を灯していた。何とかしなきゃならないと毎日焦っていた。余裕なんか欠片もなかった。何せ講師の仕事がない日は一日中家にいるしかない。受賞するかどうかもわからない小説を書くしかない。傍目には完璧に〈売れもしない小説を書いて稼ぎもろくにないダメ亭主〉だったのだ。食事の支度をする妻の背中を見る度に申し訳なさばかりが胸に込み上げる毎日。その日の夕方だった。長男は学校で部活、次男は友達の家に遊びに行っていた。妻がそろそろ夕食の支度をする頃。僕は机に向かって、講義のレジュメを打っていた。電話が鳴り、机の上の子機を取った。予感なんかこれっぽっちもなかった。そんな時間に来る電話はだいたい勧誘だった。「もしもし」「小路さんのお宅ですか」男性の声だった。「はいそうです」「えーと幸也さんはご在宅でしょうか」「はい、僕ですけど」この時点でも、何の勧誘だろうと思い僕の声はぶっきらぼうだった。でも、次の言葉を聞いた瞬間に身体中の細胞がじわんと膨らんだ気がした。「講談社と申しますが」。思わず、腰を浮かせた。「はい!」「初めましてメフィストの編集をしています●●と申します」。応募作を書いた本人に間違いないかと訊かれた。そうですと答えると「あなたの作品を〈メフィスト賞〉に選ばさせていただきました」と。それから、作品についていろいろと褒めてもらった。僕はただ「はい」と「ありがとうございます」を繰り返すだけだった。あらためて会う日の約束をして電話を切った。何よりもまず、台所にいる妻の背中に声を掛けた。「講談社から電話があった」と。「〈メフィスト賞〉を受賞した。本が出る。デビューが決まった」と。嬉しいというよりも、ホッとしたというのが本当だった。妻の笑顔に余計にその思いが込み上げた。これで、作家というゼッケンをもらってスタート地点に立てる。ただただ、ホッとした。作家になろうと決めてから、11年が経っていたんだ。 ◆忘れないように。スタート地点からは遠く離れたけれど、自分はまだトラックを走っているだけ。必死に走らなきゃならない立場なんだということを。
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